和歌山・南紀熊野ジオパークは、地球の驚異が刻まれた場所。フェニックス褶曲では、アクロバットのような不思議な写真も撮れちゃう⁉︎ 本記事では、実体験を交えながら、ジオパークの楽しみ方をご紹介します。
2025.07.09和歌山県─南紀熊野ジオパーク
ジオパークが彩る和歌山の魅力
太古の昔から続く地球の営みが織りなす、和歌山県・南紀熊野ジオパークエリアの目を見張るような絶景。
知っていますか?一見すると美しい観光地として知られるこの地に、実は興味深い地質の物語が隠されていること。
「ジオパーク」とは?岩石を見る場所?
と思う方がいるかもしれませんが。それだけではありません!
温泉の心地よい湯は、地下深くの大地が育てた天然の恵み。
夕日の名所として親しまれる千畳敷の圧巻の岩畳は、長い年月をかけて作り出された自然の芸術作品です。
そして、古代の地層からなる大地には、世界遺産に登録された熊野古道や那智の滝があります。
ジオパークとは、その土地の地質や地形の特徴を理解するにとどまらず、歴史、文化、生態系、食文化などの多角的な視点から、大地と人々の生活との深いつながりを体感できる場所です。
これらの名所を単なる観光地として楽しむだけでは、もったいない。
今夏は、特別なジオツーリズムをスケジュールに入れ、地球が紡いだ46億年の歴史を体感しましょう!
南紀熊野ジオパークのエリア
南紀熊野ジオパークとは、下記10市町村のエリアです。

おすすめスポット―3種類の大地
日本全国においては、 47地域のジオパークがあり、中でも、南紀熊野ジオパークは、プレートの沈み込みという地球規模の活動によって生み出された3つの異なる大地を一度に体感できる貴重な場所です。
3つの異なる大地とは、海底で積み重なった砂や泥が陸地に押し上げられた「付加体(ふかたい)」、その上に堆積した「前弧海盆堆積体(ぜんこかいぼんたいせきたい)」、そして地下のマグマが冷え固まってできた「火成岩体(かせいがんたい)」です。これらの地質体が織りなす独特な景観は、紀伊半島の隆起と長年の風化・浸食によって現在の美しい姿となりました。
黒潮の恵みを受けた温暖湿潤な気候は、多様な動植物を育み、古来より人々の暮らしと深く結びついてきました。熊野信仰の聖地として栄えた歴史、世界遺産の熊野古道、そして豊かな食文化まで、この大地が生み出した恵みは数え切れません。
本記事を読み終えたときには、これらのスポットを異なる視点から捉えることで、同じ景色でも新たな印象や気づきが得られるかもしれません。
大地に育まれた熊野の自然と文化に出会う
地球の表面は、大きなパズルのピースのような「プレート」と呼ばれる岩盤で覆われています。
その中、日本列島は合計4つのプレートがぶつかり合う場所に位置しています。
大地がこれらプレートの移動(沈み込む)によりどんどん押し付けられ、圧縮と隆起を繰り返しながら、現在の複雑で多様な地形を形成してきました。特に紀伊半島南部の南紀熊野地域では、豊かな自然環境が生み出されました。

熊野古道、神秘的な滝、海岸線の奇岩群。これらすべてが、大地の長い歴史の証人として、今も私たちにその物語を語りかけています。
【白浜町】千畳敷
ごつごつとした岩肌が広がっていることで知られる、和歌山県白浜にある千畳敷(せんじょうじき)は、畳を千枚敷けるほど広い岩壁であるため、その名前が付けられるそうです。
その岩盤の正体は、「前弧海盆堆積体」と呼ばれる地層で、浅い海にたまった砂や泥が長い年月をかけて固まり、岩石となったものです。何層にも重なった縞模様が、地球の営みを静かに物語っているように見えます。



近づいて見ると、地層の模様が浮かび上がってきて、まるで自然のアート。また、それらはただの風化の跡ではなく、実はかつてこの場所で暮らしていた生き物たちが残した生痕化石(せいこんかせき)です。古代の生物が砂の中を移動したり、巣を作ったりした跡が、何百万年という時間を経て岩の表面に刻まれているのです。
次に千畳敷を訪れるときは、ただ景色を眺めるだけでなく、ぜひ足元にも目を向けてみてください。大昔の海の世界が、静かに語りかけてくるかもしれません。
夕暮れの時に、広がる千畳敷の岩盤が沈みゆく太陽に照らされ、黄金色に染まります。その光景は、まさに心に残る絶景でしょう。
白浜の夕日絶景と言えば、千畳敷からすぐ近くにある「三段壁」、「円月島」もお忘れなく!恋人の聖地にも選定された三段壁へ向かうと、圧倒的な迫力がある大岩壁が南北2kmにわたり、打ち寄せる波がダイナミック。迫力ある断崖絶壁が目の前に広がり、太平洋の荒波が生み出す壮大な景観に圧倒されます。地球のダイナミズムを感じながら、自然と向き合う旅がここにはあります。


【すさみ町】フェニックス褶曲
まるで大地が波打つように曲がりくねった巨大な岩のうねり——それが、すさみ町にある「フェニックス褶曲(しゅうきょく)」です。岩の層が幾重にも折り重なり、壮大なスケールの地形が目の前に広がります。
この岩石の正体は、「付加体(ふかたい)」と呼ばれる地層。遠い昔、深海に積もった砂や泥が、プレートの動きによって陸地に押し付けられ、長い時間をかけて固まったものです。フェニックス褶曲は、その地層がプレートの力によりぐっと押され、波のように曲がった様子が見事に残された地形なのです。世界的にも有名な褶曲で、中学校の理科の教科書にも採用されているといいます。


今回はなんと、ジオパークガイドの方にご案内いただくという貴重な機会に恵まれ、現地へ足を踏み入れました。この場所はすさみ町観光協会に事前予約の上、ガイドの帯同が必須となります。
出発前にはヘルメットと手袋を着用し、慎重にルートを進みましょう。天気は快晴でしたが、足元には滑りやすい箇所もあり、歩幅を小さめにしながら、両手で身体を支えて次の足場に移る場面も。なるべく荷物は軽くし、両手が自由になる装備で臨むのがおすすめです。自然のままの道は、想像以上にハードでした。

そんな中、ガイドさんの説明を聞きながら、自分の足でこの地を歩くことで、ここがいったいどんな歴史をたどってきたのか、なぜこのような形になったのか、それが私たちの暮らしや生態系にどのような影響を与えてきたのかを実感することができました。目の前に広がる複雑な地層をじっくり観察し、ふと振り返れば、眼前には果てしなく広がる大海原の景色。自然の偉大さと、人間の小ささを思い知らされる瞬間でした。

次にまたジオサイトを訪れるときには、きっとこれまで以上に丁寧に地形と向き合い、そこに秘められたストーリーを楽しめるようになる――そんな確かな感覚が残りました。
※ジオサイト:地球の活動がわかる地質や地形等、ジオパークの見所となる場所です。
そして、自然の造形美には感動だけでなく、ちょっとした遊び心も。複雑な圧力で形成されたこの独特の地形では、傾いた地層に軽く登ったり、斜めの岩の上に立って写真を撮ったりすることも可能。カメラの水平を少し傾けるだけで、アクロバットのような不思議な写真を撮ることができるのです。もちろん、それも経験豊富なガイドさんの案内があってこそ。自分一人ではきっと気づかなかった楽しみ方です。

【古座川町】一枚岩
和歌山県の古座川町にある「一枚岩(いちまいいわ)」は、その名の通り、巨大な一枚の岩ような圧倒的スケールを誇る巨岩です。高さ約100メートル、幅はなんと500メートル以上。日本でも最大級の一枚岩として、国の天然記念物にも指定されています。

岩肌には割れ目一つなく、まさに一枚の岩としてそびえ立つ姿は、シンプルながら圧倒的な存在感。川面に映る姿も美しく、季節や時間帯によってその表情を変えるのも魅力です。
一枚岩の全体像をしっかりと眺めるには、川をはさんで向かい側にある「道の駅 一枚岩モノリス」がおすすめ。そこから古座川越しに見上げる一枚岩は、まさに自然の造形美そのもの。ただし、カメラのファインダーにすべてを収めるのは至難の業で、目に焼き付けるしかありません。このスケール感は、まさに「百聞は一見にしかず」を実感させてくれます。

道の駅では、地元の名産品や季節の食を楽しむことができ、雄大な景色を眺めながらゆったりと過ごすことができます。
清らかな古座川では、カヌー体験も人気。川面から一枚岩を仰ぎ見る体験は、自然と対話しているかのような特別なひとときです。穏やかな流れに身を任せながら、壮大な火成岩の存在を全身で感じることができます。
また、近くの串本町に位置する奇岩「橋杭岩(はしぐいいわ)」も見逃せない。火山活動や波の浸食作用によって形成されたと考えられており、地質学的にも非常に注目されている構造です。干潮時には岩場を歩いて近づくことができ、地形の成り立ちを間近で観察できる貴重なジオサイトとして、ぜひ訪れてみてください。

南紀熊野ジオパークセンター
南紀熊野ジオパークの拠点施設。
「いきなり“フェニックス褶曲”と言われても、どこへ行けばいいの?」
「生成過程を聞いても、ちょっと想像がつかないな…」
そんなときは、まず南紀熊野ジオパークセンターに足を運んでみましょう!
情熱あふれるガイドスタッフが、様々な疑問にも丁寧に答えてくれ、館内には多彩なインタラクティブ展示(英語解説付き)も設置されています。ここでは時空を超えて、南紀熊野に点在するジオサイトの分布や種類を一目で理解することができます。「あれ?さっき通りかかった道の途中で気になったあの場所も!?」という、新しい発見があるかもしれません。


もちろん、ジオパークセンターで見学した後、実際に行ってみたいと感じるスポットがあれば、ぜひ現地へ足を運んでみてください。パンフレット片手に冒険気分で向かうのもよし、現地スタッフにおすすめのルートや見どころを聞いてみるのも良いでしょう。きっと、このジオツーリズムがさらに深く、楽しいものになるはずです。
写真・映像出典
1.和歌山県観光連盟
2.南紀熊野ジオパーク推進協議会